自治体などが、家の内外がごみであふれる「ごみ屋敷」対策に乗り出している。高齢者が住人である場合が目立ち、ごみの撤去だけでなく、住人の生活を再建できるよう、医療や介護など必要な支援にも力を入れているのが特徴だ。
昨年末、神戸市にある3DKの公営住宅から、古新聞や衣類などの不用品約1・2トンが運び出された。作業したのは、同市東灘区社会福祉協議会が募った大学生ボランティアら「ダストレンジャー」の7人。市も協力し、ごみ収集車が不用品を無料で処理した。
住人は身寄りのない一人暮らしの女性(65)。飲食店で働いていたこともあったが、2年前に転んで脚を骨折。歩きづらくなったこともあって、ごみ出しが滞り、近隣から悪臭の苦情が寄せられるように。経済的にも困窮していた。
社協職員が昨夏、女性宅を訪ねると、「自分で片付ける」と支援を拒否された。しかし、訪問を重ねるうち、女性は打ち解け始め、昨年末の掃除が終わった時には大学生に「ありがとう」と謝礼を渡した。現在は社協職員に教えてもらって介護保険も利用。「以前は何をする気力もなかった。今はヘルパーさんが来てくれるので安心で、前向きになれます」と笑顔を浮かべる。
同社協は昨年からダストレンジャーによる高齢者宅の片付け支援に取り組んでいる。「ごみ屋敷は住人が孤立しているサインでもある。本人の気持ちに配慮しながら、健康的な生活ができるようにお手伝いしています」と社協職員の鎌田あかねさんは話す。
「ごみ屋敷の住人は、見守ってくれる人のいない独居の高齢者が多い」と、帝京大教授(看護学)の岸恵美子さんは指摘する。実際、2005年から住民ボランティアらと一緒にごみ屋敷対策に取り組んでいる大阪府豊中市社協では、支援した200件以上のうち約8割の住人が高齢者だった。
岸さんによると、その背景には高齢者が生活に対する意欲や能力を失う「セルフネグレクト」(自己放任)がある。身繕いや衛生に無頓着になり、医療や介護も拒否するようになる。その結果、健康を害し、孤立死につながる恐れもあり、社会問題化している。
内閣府の経済社会総合研究所が10年度に行った調査によると、高齢者がセルフネグレクトに陥った原因として最も多かったのが「疾病・入院」(24%)で、「家族関係のトラブル」「身内の死去」(ともに11%)が続いた。同研究所では、セルフネグレクトの高齢者が全国で約1万1000人いると推計する。
こうした事情から、高齢者の住むごみ屋敷問題は各地で深刻化しており、自治体もその対策に乗り出している。
東京都足立区は、そうした自治体の一つだ。今年1月、ごみ屋敷対策の条例を施行し、ごみの撤去費用を負担できないと判断した時は100万円を上限に区が肩代わりする。
自治体の命令に従わない場合、ごみを強制撤去できるが、適用例はまだない。むしろ、住人の生活の立て直しに力を入れており、高齢の親子が住んでいた家のごみの撤去費用を負担し、区社協が生活相談にも応じているという。
大阪市も今年度、同様の条例制定を目指しており、住人の生活支援も組み入れた対策を検討している。「急激な高齢化を受け、ごみ屋敷対策を行う自治体は増えるのではないか」と岸さんはみている。
高齢化に伴い、ごみ屋敷は特殊なケースではなくなりつつある。ごみ屋敷とまではいかなくても、年を重ねるにつれて難しくなりがちな身の回りの整理整頓を、どのように進めればよいのだろう。
高齢者の身辺整理について助言を行うコンサルタント会社「くらしかる」(大阪市)代表の坂岡洋子さんは、気力、体力のあるうちにものを減らして身軽になる「老前整理」を提唱している。坂岡さんによると、高齢者は限られた年金での生活が中心となるため、ものを所有することへの執着が強くなり、ものをため込む傾向がある。一方で体力も衰え、重いものを動かせなくなるため、片づけが困難になる。
もっとも、ものを捨てることは勇気がいるものだ。老前整理は、定年退職や子どもの巣立ちといった人生の節目が実行のいいきっかけになる。
坂岡さんは、片づける場所と期限を決めることを勧める。「10年以上着ていない服は捨てる」「思い出のあるものは捨てない」などのルールを各自作って守る。捨てるか残すか迷う場合は坂岡さんの考案した「5W1H」という質問項目=表=で自問してみる。
「使える」と「使う」の違いにも気をつけたい。例えば、ファンヒーターを買ったため、物置にしまった電気ストーブは、人に譲るなど処分することを考える。思い入れのあるものは、写真に撮って残す方法もある。
一度に片づけようとしないことも大切。「1日15分」「たんすを1段ずつ」など、小目標を立てて地道に続ける。
「一人暮らしの場合は、家の中をきれいにして友達を呼べる状態にしておきましょう。病気になった時に見舞いに来てもらえ、人間関係が広がります」と坂岡さんは助言する。
ごみ屋敷の住人に多いとされる単身の高齢者は今後さらに増えていきそうだ。国立社会保障・人口問題研究所の推計によると、2010年に498万世帯だった65歳以上の単身世帯は35年には762万世帯になる。
老い支度をテーマにした講演などを行う長寿社会開発センターで審議役を務める石黒秀喜さんは「60歳を過ぎたら、足腰が弱くなったらどうするのか、今の家に住み続けるのかなど、老化や介護について考える機会を持ってほしい。家族で話し合ったり備えたりして老い支度をすることは、晩年の時間を有意義に過ごすことにつながる」と話す。(古岡三枝子)
◆捨てるかどうか悩んだ時に自問する5W1H
〈1〉What(これは何? 実際に使っている?)
〈2〉Why(どうしてこれが必要なの?)
〈3〉When(いつ必要なの? いつかはいつ?)
〈4〉Where(どこで使うの?)
〈5〉Who(誰が使うの?)
〈6〉How much(いくらしたの? 今の価値は?)
(坂岡さんの話を基に作成)
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